☆短編

・南北朝時代の武将×近未来の人型兵器将校

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大昔に書いていた駄文を発掘

確か 近未来に軍部が造った人型戦闘兵器が 歴史に人為的な歪(ひず)みが生じぬよう
その時代に渡って特定の人物を監視するとか何とか…… 恐らくそんな内容の話だったと思う

……ええ もうムチャクチャですね
自分でもよく判っています

捏造甚だしいとはいえ 史実上の人物が出てきますので 苦手な方はご注意ください





玻璃



近畿、河内国(かわちのくに)。
この地を治める悪党、楠木家現当主・楠木正成の傍で任務に当たり、早十余年。

上質な辰砂【⋆1】を武器にやり手の堺商人たちと対等に渡り合い、一代で更なる巨額の財を築いた男に、時として姉のように、また母のように接してきたシャイレンは、その辣腕振りに驚きを禁じ得なかった。

幼い頃、観心寺の子坊主・悪やんと野山を活発に駆け巡っていた、あのあどけない豊頬の少年が、いつの間にか元服し、あっという間に大人になった。

何でも、父の勧めで、近々嫁を取るそうだ。

「…早いものだな」
「ん? 何か言うたか、蓮(れん)?」

商人たちとの商談を終えた正成が、こちらを見上げながら屋敷の軒先に腰を下ろす。
齢(よわい)二十。
その精悍な面差しは、既にシャイレンと変わらない年齢に見える。

「そや、蓮。今度、堺で大きな市が開かれるらしいんやけど、お前も行くか?」
「無論」

二つ返事で返すと、正成は少年のように笑った。
その笑みに、思わず苦笑が零れる。

いかに面差しが変わろうと背が高くなろうと、まだ二十を数えたばかりの青年なのだ。

飛び降りようと幹に手を掛けた時、不覚にも足を滑らせた。

シャイレンは厳しい訓練と幾多の戦火を乗り越えてきた兵(つわもの)の時空軍将校であり、且つ人ならぬ機械化歩兵である。
たかだか数メートルの高さから転げ落ちた程度では怪我のしようも無い。
…のだが。

「――蓮ッ!」

幼い頃からシャイレンの超人的な身体能力を目の当たりにしている筈の正成が、慌てて腕(かいな)を広げ、落下するシャイレンの躰(からだ)を包み込んだ。

既に着地体勢を取っていたシャイレンは、咄嗟のことに身動ぎすら出来ず、重力のままに逞しい腕の中に収まった。

「多聞、大丈夫だ、放してくれ」

いつもの癖でつい幼名で呼んでしまう。
だが、いつもは苦笑して返す正成の顔に、何故か笑みは無い。
背に回された腕が更に力を増し、厚い胸板にきつく押し付けられる。

「多聞……正成?」
「暫く、このままでいさせてくれ」

シャイレンの髪に頬を摺り寄せ、低く呟く。
まるで母親に甘える小さな子どものように。

そんな様子に苦笑し、静かに瞑目する。

改めて思うに、随分と体格差が付いたことが判る。
いつの間にか、身長も肩幅も、平時の膂力すらも抜かれてしまっていた。
ついこの間まですっぽりと腕の中に納まっていた小さな躰で、今はこちらが包まれている。
実に奇妙だ。

そんなことを思っていると、ふと顎を持ち上げられ、何か温かなものが唇を掠めた。
眼を見開くと、すぐ眼の前に正成の精悍な顔があった。

「――正成?」
「俺は今度、父の勧めで嫁を貰うことになった。名前も顔も、何も知らん娘や」
「…ああ、その話か。それなら、わたしも聞いた」

平然としたシャイレンの言葉に、何故か正成は僅かに眉を顰め、苦しげに呻く。

「でも、俺はそないな嫁、欲しくない。好いとる女がおるさかい」
「…ほう。では、そのことを正遠殿に進言してみればどうだ」
「蓮」

正成の視線に鋭さが増す。
シャイレンには訳が判らない。

正成は、何故これほどに激しい眼でわたしを見る?

「…もうええ。俺は勧め通り嫁を取る」
「前言と真逆だな。好いた女とやらはどうするんだ」
「…お前、ほんまに鈍いわ」

溜息を付き、正成が腕を解(ほど)いた。

ヒューマノイドであるシャイレンには、人の心の機微はさっぱり判らない。

訝しげに首を捻っていると、不意に後頭部を引き寄せられ、熱いもので唇を塞がれた。

突然のことに身を固くするが、徐々に深くなる接吻に息苦しさを覚え、激しく首を振る。
こういう場合、どう対処すべきなのか、プログラムには何も記されていない。

漸く口腔を解放されたと思うと、今度は唇を激しく吸われた。
息が出来ない。

「…かはッ」

離れた唇からどちらのものともつかない銀の糸が引き、夕陽に綺羅と光る。

「…もう二度と、こないな風にお前には触れん。何やっても気付かんのに、いつまでもダラダラ期待し続けるのは俺の趣味や無いさかい」

愕然と崩れ落ちるシャイレンを見下ろし、正成は小さく言い捨て、背を向けた。






初めて恋した女は、人の心を解さない玻璃(ガラス)のような存在だった。
心を持たぬ玻璃に恋焦がれて、報われる筈が無い。
だが、判っていて足掻いたのも事実。
到底諦め切れぬが、それでも諦めねばならぬ。

沈み掛けた夕陽を臨む楼で、正成は静かに瞑目した。

握り締めた拳に爪が喰い込み、赤い血が流れる。
それはまるで、声無き正成の悲痛の叫びのようだった。






この後(のち)、正成は比企氏より嫁を取る。
娘の名は比佐。どこかシャイレンに似た女だった。





【⋆1】この時代の白粉の原料。現代でいう水銀。
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~ Comment ~

背景が気になりますね

こんにちは。
ぎゅっと詰まった短編でした。

お時間があったら長編で読みたいなと思わせる作品です。

シャイレンにはやっぱり心はないのかなー、でもあったらあったで、後は可哀そうなことになりますね。



ご感想ありがとうございます

ありま様。

わざわざこんな大昔の駄文にまで眼を通してくださり、誠にありがとうございます。
しかもご感想までいただけるとは……改めて読み返すと今以上に拙さ過ぎて、穴があったら入りたい気分です。
何という厨二病文章……ああ、お恥ずかしい。

実はこの話、愚かにも最初は長編として構造を練っておりました。
ただ、無駄に設定ばかりが先走り、結局話を書く気力が失せてしまったという(汗)
なので、現在はこの短編しか残っておりません。
まあ、設定を書き記したファイル自体は消去した記憶はないので、それが見つかりえすれば、当時どんな展開を思い描き、どんな結末を考えていたのか判るかもしれません。

シャイレンについて。
本当は、もっと人間的な部分を削ぎ落した人物像を想定していたのですが、中途半端に心の機微を理解する感情を持っているような描写になってしまいました。明らかに失敗です。
ですので、心はあるようでない、ということにしておいてください。

改めまして、ご感想ありがとうございました。
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