「ミスフル【※】」
・色物

【犬♀猿】「意地張り五題」5

 ←巫子と吸血鬼 番外編2 →投稿記事200件越え
犬→♀猿。
相変わらず天国の言葉遣いが汚いです。

最初にお断りしておきます。

できてません。

その点お間違えのないよう、お願いいたします。





5 無茶すんじゃねぇ(心配しちゃ悪いか)




 この日は土曜。
 珍しく部活もなく、朝から私用で遠方に出かけていた十二支高校野球部の一年でエースピッチャーの犬飼冥は、その帰り道でとんでもない現場に鉢合わせることになった。






「このオレの眼の前で嫌がる女の子に無体をはたらこうたぁいい度胸じゃねぇか。ぇえ?」


 聞き覚えのある声が横から耳に入ってきて、犬飼は思わず足を止めてその方向を見た。

 ヤクザまがいの低い声は、女にしてはやや背の高いひとりの少女のもの。
 肩にかかる程度の短い髪を振り乱し、すさまじい形相でドスの利いた啖呵を切っている。
 しかも、その足許には、彼女に倒されたと思しき複数の男が、無惨な様子でゴロゴロ転がっているというありさま。

 悪さをされそうだったところを助けられたらしい女子高生数人は、自分たちに絡んできた男どもよりも、救い主のはずの彼女に対してこそおびえているように映った。
 周囲の野次馬もまたしかり。
 彼らは、当事者である女子高生たちが当の少女を置いてそそくさと逃げ出すと同時に、ひとり、またひとりと、本来の各々の道へと散っていく。


「…!」


 犬飼はその光景を見るや否や、すぐさま死屍累々の惨事の渦中にとびこみ。

 そして、白目をむいて失神しているあまり人相のよろしくない男の胸倉を掴み、現在進行形でつるし上げている、同校野球部の女子マネージャーにして彼の幼馴染でもある最愛の少女――猿野天国の腕を掴んだ。


「おい猿、もうやめろ。とっくに気い失ってるぞ、そいつ」
「…てめぇ、犬か。何だよ、オレの邪魔しようってのか?」


 ゆらりと振り返った天国は殺気立った眼光をぎらつかせ、穏やかでないことを言う。
 そんな天国の血気盛んな性分をよく知っている犬飼は、わずかもひるまず冷静にさとす。


「そうじゃねえ。ただやりすぎだっつってんだよ。

 落ち着いて周りを見てみろ。もうお前とお前がのした連中しかいねぇだろ。
 お前が助けた女も、野次馬も、みんなお前のやりように引いて、とっくに消えてるぜ。

 これ以上やってると、お前、通報されて傷害罪で捕まるぞ」

「……ちっ」


 とても女とは思えないほど悪たれた態度で舌うちしつつも、もっともだと思ったのか、意外にも天国は大人しく犬飼の忠告に従って男を放し、さっさとその場を去っていった。


「っておい猿、待てッ」


 天国の手にかかり、往来に打ち捨てられた男どもをどうすべきかと頭を悩ませていた犬飼は、慌てて思考を切り上げて彼女の後を追った。








 西の空から徐々に夕焼けが始まって、世界がだんだんと茜色に染め変えられる頃。
 天国と犬飼の幼馴染二人はつかず離れずの距離をたもち、川沿いの土手を歩いていた。


「ったくお前は……いつでもどこでも誰彼かまわずケンカふっかけやがって」


 散々に乱れた恰好で、早足で数歩先を行く天国の背に続きつつ、犬飼が溜息をつく。

 ぴくり。

 聞き捨てならないセリフに、天国は不快げに眉宇をはねあげる。
 立ち止まりざまにくるりと振り返り、鋭利な犬歯をむきだしにして怒鳴った。


「うっせー! オレぁ女の子をバカにしたり、てめえの好き勝手に扱ってやろうってハラで無理強いしたりしようとする、男の風上にも置けねえヤローがダイッキライなんだよっ。
 ましてそんな場面の真っただ中って現場に遭遇して、これが黙ってられっか!」


 大した正義感と義侠心だと言いたいところだが、それが口だけでないのが困りものだ。
 なまじっか、女だてらに不遜な男どもを捻じ伏せられるだけのすべを十二分に身につけているからこそ、余計にたちが悪い。
 天国が「オレ」と自称するのもその辺に理由があったりするが、それはまた別の話だ。

 ――ともあれ、こんなふうに自分の身の危険もかえりみず、毎度毎度揉めごとに首を突っこんでいかれては、犬飼のほうが精神的に身がもたない。


「てめぇだってそうじゃねえのかよ!?」


 怒りを宿した天国の双眸が夕陽に照らされていっそう輝き、犬飼を鋭く射抜く。

 しかし、睨まれた犬飼はというと、凛とした眼差しに魅入られて、つい「きれいな眼だな…」なんて場違いなことを考えてしまう。
 それを嗅ぎつけたのか、天国はいっそう眉をしかめ、すぐにフイッと顔を戻してまた歩き始める。……さっきよりも明らかに不機嫌になったオーラをビシビシと放出しながら。


「――」
「……」


 双方ともに緘黙し、一旦会話が途切れる。
 それからしばらくは互いに無言。


「――なぁ、コゲ犬」


 土手の道の端から端までの半分ほどを歩ききったところで、ふと天国が声をあげた。
 さっきと違って足は止めず、顔も正面を向いたまま。


「…オレは犬じゃねぇ」
「ハッ、犬を犬って呼んで何が悪い」


 あまりの言いように、さしもの犬飼もひくりと顔を引き攣らせる。


「テメ…かわいくねえやつ」
「かわいくなくてけっこう」


 笑い混じりの悪態と皮肉の応酬。いつもの天国だ。
 少なからずほっとして、無意識にこわばっていた犬飼の肩から力が抜けた。




「あのさ、冥」

「え?」


 不意にボソッと言われた言葉に、犬飼は一瞬虚を突かれたように軽く眼をみはる。


(オレの、名前……)


 子どもの頃、互いに下の名前で呼び合っていた天国と犬飼。
 でも、学年が上がるにつれて、それは「犬飼」「猿野」というそっけないものに変わっていき、今ではすっかり「犬」「猿」呼ばわりが普通になって。

 二人の間にあった名前なんか、いつの間にか忘れ去られてしまった。
 そう思っていたのに。

 言葉もなく驚く犬飼に気づかず、天国はなおも続けた。


「――止めてくれて、ありがとな」


 鼻の下をこすりつつ、てへへと照れたように笑う天国の屈託のない笑顔を見て。
 犬飼の胸にじんわりと温かいものが広がり、同時に胸が掻き乱されるように疼いた。

 犬飼は眼を細めて、無鉄砲だけど優しい、大切な、愛しい愛しい幼馴染と肩を並べた。


「……とりあえず、もう無茶すんじゃねぇぞ、天国」
「ん」


 ポン、と頭に大きな手を載せられ、天国はこっくりと小さくうなずいた。

 長く伸びた影の頂上が、二人の動きに合わせて重なった。
関連記事
スポンサーサイト

 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 拍手コメントお返事
総もくじ 3kaku_s_L.png 鍵付き記事
総もくじ 3kaku_s_L.png ★暁の煉獄
総もくじ 3kaku_s_L.png ★難攻不落の姫君
総もくじ 3kaku_s_L.png ★狂気の贄
総もくじ 3kaku_s_L.png ☆お題
総もくじ 3kaku_s_L.png 戦国BSR【※】
総もくじ 3kaku_s_L.png ミスフル【※】
総もくじ 3kaku_s_L.png アカギ【※】
総もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ  3kaku_s_L.png 拍手コメントお返事
もくじ  3kaku_s_L.png BKM・BGM
もくじ  3kaku_s_L.png 既刊販売案内
総もくじ  3kaku_s_L.png 鍵付き記事
もくじ  3kaku_s_L.png ★日向の娘
もくじ  3kaku_s_L.png ★情の洪水
もくじ  3kaku_s_L.png ★傾国の女神
総もくじ  3kaku_s_L.png ★暁の煉獄
もくじ  3kaku_s_L.png ★蒼月を仰いで
総もくじ  3kaku_s_L.png ★難攻不落の姫君
総もくじ  3kaku_s_L.png ★狂気の贄
もくじ  3kaku_s_L.png ★天の咆哮
総もくじ  3kaku_s_L.png ☆お題
もくじ  3kaku_s_L.png ☆短編
もくじ  3kaku_s_L.png ☆STAR SPECTACL
総もくじ  3kaku_s_L.png 戦国BSR【※】
もくじ  3kaku_s_L.png 三国志【※】
総もくじ  3kaku_s_L.png ミスフル【※】
もくじ  3kaku_s_L.png トリコ【※】
総もくじ  3kaku_s_L.png アカギ【※】
もくじ  3kaku_s_L.png 狼花【*】
【巫子と吸血鬼 番外編2】へ  【投稿記事200件越え】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【巫子と吸血鬼 番外編2】へ
  • 【投稿記事200件越え】へ