「★狂気の贄」
第二章 花と贄

狂気の贄 06

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06 踏み入れた先は袋小路




 修記郎はそのまま、無人の小屋に住みついた。
 自炊のための道具は村の家から持ってきたものがひと通り揃っていたし、何より人里離れた峻厳な山には人ひとり飢えずにすむだけの食料があった。
 春先という時季もよかったのだろう。


 ――だが。


 …雪積もる厳しい冬がやってくるまで。
 あるいは、王城の手の者に自分の居所を嗅ぎつけられるまで――

 ここでの生活も、いつまで続けられるか判らない。

 そんな、一時の避難場所にしかならないかもしれないという危惧には敢えて眼を瞑り、修記郎は深い深い山中に腰を据えることを決めたのだった。










 山での自給自足の生活が始まって、一月ひとつきほどが過ぎた頃。

 この日も修記郎は、朝方川から汲んできたばかりの清水を使って、定住地と定めた翌日に小屋の近くの土をおこして種蒔きした右足の痛み止めの薬草の芽に水をやり、昼間に採ってきた山菜や野草の下処理をすませ、早めの夕食の支度に取りかかっていた。


「…?」


 ――今、外で物音がしたような。
 それも、よく備蓄の食料を食い荒らしに来る野兎や鹿といった動物が出す音ではない。


「――……!」


 悟った瞬間、全身からざぁっと血の気が引いていった。

 それは、修記郎が最も恐れるもの。


 ――人間の、気配だった。


(まさか……もう、見つかったというのか!? …早すぎるッ)


 前は丸々三年、隠れおおせたのに。

 焦燥に歯軋りするが、どこにも隠れる場所はない。
 もとより、この脚では逃げることもできない。

 身じろぎひとつ満足にできぬ状態で、穏やかな日々に終止符を打たれるその時を待った。




「――」




 ――じわりと嫌な汗がにじみ、全力疾走した後のように息を詰まらせてから、どれだけ経ったか。

 警戒心と絶望に脳内を支配された修記郎も、さすがにおかしい、と感じ始めた。


(…何故、踏みこんで来ない?)


 拍動は速いままだったが、身構えていた全身のこわばりは消える。
 一度芽生えた疑念は、慎重な修記郎の行動を少しばかり軽々にさせた。


 追手では、ない――?


 右足に余計な負荷をかけぬよう、床に手を突いてそろりと立ち上がり、極力足音を殺して一歩一歩踏みしめるようにゆっくりと小屋の入り口に向かう。
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